事業内容

省エネ診断を受けてから10年。今だからわかる受診のメリット。 株式会社キョークロ様事業所のみなさんへ

省エネ診断を受けてから10年。今だからわかる受診のメリット。
株式会社キョークロ様

【はじめに】

10年以上前(2010年)に事業所の省エネ診断を受けられた株式会社キョークロさん。
省エネ診断を受けたあと、何がどう変わったのか。診断を受けるメリットや、活用方法は?
時間が経った今だからこそ話せる「正直なところ、どうだったのか」について、お伺いしました。

【お話をして下さった方】

株式会社キョークロ
https://www.kyochro.co.jp/

  • 代表取締役 寺田 理 様
  • 取締役総務部長 槇 勇雄 様
左:寺田さま、右:槇さま

【取材日】

2022年9月2日(金)

【内容】

「株式会社キョークロさんは、どんな会社ですか?」

いわゆるめっき業・金属の表面処理をする加工をしています。ねじ等の金属部品を預かって、酸やアルカリなどで洗浄したあとに、めっきやコーティング、塗装などの処理をします。

たくさんの化学薬品を使いますし、めっき工程や塗装の乾燥に利用する電気やガスなどのエネルギーも、水も、たくさん使います。そのため、昔から環境負荷を減らす取組や省エネの取組は、前向きに行ってきました。

株式会社キョークロ本社

「扱われるのはどんな部品が多いのですか?」

自動車関係の部品が多いですね。ねじなどの小さな部品がほとんどです。

加工済のねじ

「表面処理加工やめっき加工について教えてください」

金属の表面を薄い膜で覆います。錆びにくくなったり、堅くしたり、摩耗を予防したりすることで、部品を長持ちさせることができます。また、見た目を美しく仕上げることができます。

ただ、その処理をするためには、大量の水、電気、ガスが必要になります。井戸水を使っていますが、使用した後の水はきちんときれいに処理をしてから下水に流します。水は毎日相当の量をつかっています。エネルギーがたくさん必要な、光熱費がかかってしまう業種です。

「省エネ診断をされたきっかけは?」

先代(父)が、こんなのあるよと教えてくれたのがきっかけでした。
お話をしたとおり、そもそもエネルギーがかかる業種なので、省エネ診断をする前に、すでにデマンド計(※1)の設置や、コジェネ(※2)などは導入していました。

(※1:デマンド計)電力の使用状況を確認するシステム。一般的には、デマンド制御装置と一緒に使用することで、一度にたくさんの電気を使用する際に、一定量以上の電気を使わないように制御します(重要でない機械の電気を止めるなど)。これは、ピーク電力(一番たくさん電気を使った量)によって基本料金が変わる電気の契約があり、工場等ではよくこの契約になっていることが多いため、ピーク電力が小さい方が基本料金を安く抑えることができます。
(※2:コジェネ)コージェネレーションシステム。2つのエネルギーを同時に生産することで効率を良くするシステム。例えばガスを燃やして電気をつくり、発電時に出る廃熱を給湯や暖房などに利用するなど。

「省エネ診断を受けて、どうでしたか?」

プロが見てくれるというのがありがたいですね。電気やガスの使用状況や、メンテナンス、運用、更新のことなど、外部の目で課題を挙げてもらうことができる。自社の人間だけでは分からない情報を得ることができました。経験や知恵がある方でないとできないことだなあ、と思います。

診断前は、4つある自動めっき設備がたくさんの電力を消費していると思っていましたが、実際に測定してみると、予想よりも少なかったり、同じような設備でもバラツキがあることなどが分かりました。

「省エネ診断後の対策で、やって良かったことを教えてください」
コンプレッサー(※3)の空気比(=圧縮空気必要量に合わせた供給体制)の見直しです。複数台あるものを1台に統合しました。教えてもらってよかった。エア漏れも気を付けています。
それから、炉に断熱材を付けました。これは省エネだけでなく、作業環境の改善にもつながり、良かったです。

(※3:コンプレッサー)空気圧縮機。

≪対策1:コンプレッサー≫

コンプレッサーが不必要なときもフル稼働しているということが分かり、インバータ化(※4)をしました。さらに、複数のコンプレッサーをやめて、1台に集約して制御運転するようにしました。これにより、コンプレッサーの消費電力を30%減らすことができました。

(※4:インバータ)インバータは周波数や電圧を自由に変えることができる技術で、モーターの回転数を自在に変えられます。負荷に合わせて回転数を減らせば省エネになります。
1台に集約されたコンプレッサー
1台に集約されたコンプレッサー

≪対策2:ガス乾燥炉の断熱≫

電気の乾燥炉をガス炉に変えました。当時はそうすることでCO2削減と光熱費削減になりました。また、排熱を利用して予備乾燥に利用できるようにしました。
その後、ガス乾燥炉の断熱をしました。対象の炉は350℃にもなりますので、炉の周りに熱が逃げてしまい、工場内の気温も高くなります。これを断熱材で覆うことで、逃げる熱が減ってガスを20%削減できました。

それだけでなく、夏場の工場内はとても暑かったのですが、それがマシになって作業環境が改善されました。

炉を覆うように灰色の断熱材を取り付け
炉を覆うように灰色の断熱材を取り付け

「省エネ診断、どんなふうに活用するのが良いでしょう?」

省エネ診断後にいくつか改善案の提案をもらうことができます。すぐにできることはやりますが、すぐにできない設備更新などについても、資料やデータをもらうことができます。それがあると、補助金の申請もやりやすくなりますし、この設備の更新をしたいから補助金をさがす、というようにねらいもハッキリします。

なんとなく、ではなく「現状のデータや削減効果のデータを、数字で持っている」というのが強みですね。数字があるから判断できる。

最初は正直なところ、費用がかかる対策について「効果があるのは分かるけれども、なかなか…」という気持ちでした。でも、小さな対策を実施してみて効果があるということを実感することができました。実感があるからこそ、大きな改善にも踏み切れるようになりました。

「その後のことを教えてください」

普段から、省エネに限らず業務全般について、日々の改善を積み重ねていくようにしています。
設備更新のイニシャルコストは、補助金(助成金)を活用しています。実は、その後も省エネ診断を何回か受けて、これらの改善の参考にしています。

これまでにも、京都府の「京VER」の補助金(※5)を使って、モニタリングシステム「もっとセーブ」の導入(2013年)、照明のLED化(2016年)、高効率エアコン(ガスヒートポンプ:GHP)導入(2020年)を実施しました。

工場内のLED照明
工場内のLED照明

他にも、現在府が出しておられる補助金で、スポットエアコンの更新(効率化)を久御山町にある子会社で、やろうかなと検討をしています。

設備更新の対策は、実は、メリットもあればデメリットもあります。例えば、うちでは電気炉をガス炉に変えました。そのことで、一部メンテナンスが必要なところも出てきています(酸を使うため腐食に気を使ったり、熱風があたる接点を交換したりなど)。
だからこそ、設備更新の際には、データがとても大切です。また、それだけでなく、改善実績を積み重ねて経験しながら進めることが大切だと思っています。
設備更新について「データがない話」はうさんくさいと思っています。

(※5:京VRE補助金)京都府ホームページ:京-VER創出促進事業補助金
https://www.pref.kyoto.jp/tikyu/kyo-ver.html

「補助金情報って、どうやってチェックされているのですか?」

メールが多いです。メールマガジンに登録しています。
エコ・エネのメール(※6)、京都産業21のメール(※7)、中小企業技術センターのメルマガ(※8)などですね。
事業者さんが営業の際に紹介してくださることもあります。でも、それはうちでは少ないですね。

(※6:エコ・エネのメール)一般社団法人 京都知恵産業創造の森:京都エコ・エネ交流クラブ (KEC)
https://chiemori.jp/smart/club
(※7:京都産業21)公益財団法人 京都産業21:メールマガジン
https://www.ki21.jp/mailmagazine/
(※8:中小企業技術センターのメルマガ)京都府中小企業技術センター
https://www.kptc.jp/p_kankoubutsu/p_mandtnewsflash/

「これまでの設備更新はどんな感じでされてきたのですか?」

≪炉≫

先ほども言いましたが、電気炉をガス化しました。それでCO2を削減することはできましたが、水蒸気が当たるところのメンテナンスが必要など、変化もありました。
今年度も、また省エネ診断を受けたのですが、最近は、CO2削減の関係で電気の炉にしていくという流れがあるとのことです(※9)。時代の流れを感じています。

(※9)化石燃料を使用すると、高効率のものを使用したとしてもCO2は排出されます。そこで、電化をして、CO2排出係数の低い電気や再エネ電気を導入(もしくは購入)して、CO2排出量を減らしていくという脱炭素に向けた流れが出てきています。

≪見える化≫

最近は、エネルギーの見える化システムのサービス利用を一部やめています。
補助事業を活用して、エネルギーの使用量を見える化するシステムを導入しました。これで、電気やガスの使用状況などを把握することができました。しかし、相応のシステム管理費が必要なため、今はやめています。それは、役に立たないということではなく、見える化システムを活用してきたことで、だいたいの使用状況を把握できたということと、電気およびガス全体の使用量はエネット自体がWEBで見ることができるようになったからです。電力会社のシステムで、見える化サービスを利用すれば自社で測定器を置かなくても30分単位の電気の使用量を把握することができます(※10)。

(※10)例えば、関西電力の場合:電気ご使用量お知らせサービス
https://biz.kepco.jp/inquiry/kenshinweb/

水を使うので、水量計を使って見える化(もっとsave)をしていたこともあります。工場内のラインで水の使い方が違うので、バルブが空いているなどの状況を把握できて良かったのですが、こちらも続けていたら、だんだん省エネのネタが見つからなくなってきたので、サービス利用料を払うほどでもなくなってきました。

≪照明・空調≫

LED交換はメリットが分かりやすくて良いですね。
空調(エアコン)は12~13年で更新となりますが、高効率のものにして、さらに全体空調から分散空調にしていかないといけないと思っています。

「検討したけど、現時点ではしていない対策はありますか?」

太陽光発電の導入は、以前検討したのですが、その時は屋根の構造等の問題もあって投資効果が見込まれないということで、見送りました。ただ、省エネや環境配慮を進めないといけないご時世なので、CO2削減を進めていくためには有効な手段と思っています。

井戸水を利用した熱交換型のクーラーについても、現在検討中ですが、風量を上げる工夫や設備が大きくなるなどの課題も残っています。今年度の府のモデル事業(※11)で実施することも考えましたが、こちらは申請準備が間に合いませんでした。

(※11)令和4年度 京都市中小事業者省エネモデル実施事業(委託)※すでに締切されています
https://chiemori.jp/smart/support/y2022/r4-syouene_2.html

「いま、難しいと感じていることは何ですか?」

省エネも必要ですが、働き方改革で作業環境改善も必要です。これの兼ね合いが難しいと感じています。

それから、今後の光熱費の値上がりが心配ですね。ガスは1年前とくらべて40%上がってきています。どこも大変だと思いますが、本当に厳しいです。

「いま、気になっている対策はありますか?」

放熱を抑える塗料があるらしいのです。触ったら熱いけれども、熱が放熱されないから離れたら伝わってこないらしいと聞いていて、熱ロスがその分減るとのこと。低放射熱塗料(サーモレンジ)と言うそうです。
これが、本当に効果があったら作業環境を良くしながら省エネになります。うちだけでなく熱で困っている職場は多いと思います。いま、調べているところです。
でも、メリットがあればデメリットも必ずあるので、それを踏まえないといけないと思っています。営業の方はデメリットまで言わないこともありますしね。

「今回、省エネ診断の当時を振り返って、いかがでしたか?」

見える化は大切ですね。
電気やガスの1年間のデータを見るだけ、デマンド(※12)を見るだけで、違ってきます。
お正月と日曜日のエネルギーを比較するだけでも、色々と分かります。

(※12)この場合、電気やガス、水をいつたくさん使用しているのか。また、使っていない時はいつか。

エネルギーだけでなく、いろいろな問題をちゃんと「見える化」することは大切だと思っています。
どうやって、それを見つけるのか。うちの社員はいつも頑張ってくれます。
そして、「問題を見つけたら工夫を積み重ねよう」と社員にいつも言っているんです。だから自分もやって見せないとね。

工場内の見える化システムを導入されています
工場内の見える化システムを導入されています
たくさんの表彰状や感謝状
たくさんの表彰状や感謝状

【おわりに】取材を終えて

株式会社キョークロさんでは、ISO14001を同業二社で一緒に認証されているそうです。マニュアルを一緒にして普段はそれぞれで取り組み、内部監査はお互いに実施をしているとのこと。
他にも、めっき業として、六価クロムがヨーロッパで規制されたことを受けて、いち早く六価クロムを廃止して三価クロムの対応を進めるなど、環境対策も、事業そのものも、常にバージョンアップをされています。

小さな省エネ対策を実践して、減ったと実感できるからこそ、費用が必要な大きな対策にも取り組んでいけるというお話や、設備更新は良いことだけでないからこそ、改善経験を積み重ねることが大切だというお話が、特に心に残りました。
様々な問題を見える化して、工夫を積み重ねて日々の業務を実施されている。そして、社長さんが率先してその姿を見せておられるからこそ、時代の流れをしっかりつかみながら常に進化し続けていらっしゃるステキな会社さんだと感じました。

ヒアリングの様子
ヒアリングの様子

(以上)

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京都の中小企業~省エネ・再エネ・環境経営の取組事例(2023年2月発行)画像