【特集】デジタル時代の環境負荷~インターネット利用の電力消費~
~ひのでやエコライフ研究所 鈴木靖文さんにお聞きしました~
デジタル化は効率がよくなり省エネ?それともデータセンターで使う電力が増えて増エネになる?
インターネット利用に伴う電力の使用についてお聞きしました。
●●スマホの見えない向こう側
21世紀は、地球環境とインターネット(情報技術)の時代です。どちらも私たちの生活にも大きな影響を与えてきました。これからも地球環境問題は深刻度を増す一方、エネルギーを大量に消費するインターネットも急増することが予測されており、放っておけない重要なテーマとなっています。スマホで動画を見てしまう習慣が、環境にどう影響しているのか考えてみます。
実はスマホ端末自体は非常に省エネな機器です。動作時は平均1W(ワット)程度の消費電力で、ノートパソコン(7W)、デスクトップパソコン(35W)などより省エネになっています。テレビ(20~100W)と比べても小さくなっており、テレビよりスマホで時間を過ごすほうが省エネとも見えます。
しかし単純にそうはなりません。スマホの見えない向こう側、インターネットを「使う」ことの環境負荷が、意外とばかにならないという結果が出てきました。まずは通信回線でインターネットに接続する必要があります。さらに世界中のインターネット網のつながりを利用しており、その先で動画配信などのサーバー(データセンター)に接続しています。それぞれに電気が多くかかり、計算すると、スマホ端末の60倍(60W)の電気が消費される結果となりました。
●●AI検索の電力消費
インターネット検索を行うと、今度はサーバーの消費電力を大きく消費することになります。特に最近急増してきたAIを活用した検索を行うと、いままでの検索の10倍以上のコンピュータ負荷がかかり、その分電力が大きくなると推計されています。おおよその感覚としては、検索ボタンを押したら、検索結果が得られるまで1500Wの電子レンジが動くようなものです。AI機能は、ここ1~2年で急に便利なものと認知されるようになってきましたが、複雑な計算のために、極端に多くの電気を消費します。データセンターで消費される電気は莫大で、世界全体の2%を占めていますが、AI目的のデータセンターが急増しており、消費電力量が4年間で倍増することが予測されています。ちょうど日本全体で消費される電力分が増えてしまう計算です。
●●環境に配慮したインターネットの使い方
ではどうしたら環境に配慮した使い方になるでしょうか。まずは動画がインターネット内の情報量の半分を占めており、大きな負荷となっている点です。無料だからといって、もしくは定額だから元を取ろうとして、長時間使っているのは控えたほうがよさそうです。一方で、単純なホームページやSNSなどは情報量も少なくなっており、そうした利用であれば環境負荷も小さくなります。
インターネットも使いようです。気候変動の観測や、SNSなどを通じた環境活動のネットワーク、輸送効率化や無駄削減など、環境負荷を減らすためにも大きく貢献しています。京都府のインターネット環境家計簿も数ワットという小さなサーバー機能で動いています。また、紙の印刷物となっている新聞や本なども、画面で見ることができれば大幅な資源やエネルギー削減につながります。使い勝手はまだ改善の余地がありそうですが、環境負荷低減につながる面では間違いありません。
そして、今後の情報技術の進展も期待できます。わずか2~3年で効率が倍増という勢いで、省エネ化も進んでいます。最近のスマホの性能は、2002年の世界トップ性能を誇ったスパコン「地球シミュレータ」と同じ性能を持っており、消費電力は500万分の1になっています。インターネットも、いまの利用量(便利さ)のままで増やさなければ、電気消費量は10年で100~1000分の1以下になるはずです。AIや動画など便利な機能はどんどん増えるのが問題ですが、省エネ技術の進展を見ながら数年様子見ができれば、超省エネで実現できることになります。急がず慌てず「足るを知る」ことが、ここでも重要です。
●●ライフサイクル全体での環境負荷を考える
今回はインターネットの話でしたが、他の環境問題にも関わる重要な視点があります。それは、家で直接使っているエネルギーだけでなく、商品やサービスについて、それを製造・輸送するために使われている分も含めて考える必要があるという点です。こうしたライフサイクルでのCO2負荷は、LCAという手法で計算され、スーパーで売られる商品にも表示されるような時代になってきています。
そしてエネルギーやCO2以外にも、資源や生態系の問題にも関わっている点もみていきたいところです。世界中の希少金属を組み合わせてはじめて、スマホが製造できます。世界各地の鉱山開発も、お手元のスマホと大きくつながっており、新機種ばかり追い求めないようにしたり、使用後にリサイクル回収したりすることも大切です。
ふだん生活で使っている商品やサービスが、どう世界の環境負荷につながっているのか、ぜひ電気をあまり使わない方法を駆使してインターネットで調べてみてください。
[おすすめ資料]
・ギョーム・ピトロン著:『なぜデジタル社会は「持続不可能」なのか,』原書房、2022年
・村井純著:『インターネット文明』岩波書店、2024年
・ひのでやエコライフ研究所ホームページ「インターネット利用に伴うCO2排出量」
https://www.hinodeya-ecolife.com/post/internetco2/