自社農場での野菜づくり、加工、販売までを手掛けるお漬物屋さんの取組。株式会社もり様
自社農場での野菜づくり、加工、販売までを手掛けるお漬物屋さんの取組。
株式会社もり様
【はじめに】
補助金を上手に活用しながら省エネをぐっと進められた京都のお漬物屋さん。
自社農場で野菜づくりも取り組まれていると聞き、様々な取組についてお話を伺いました。
【お話をして下さった方】
株式会社もり様
https://kyoto-mori.co.jp/
- 営業部 課長 森 知史 様
【取材日】
2023年1月13日(金)
【内容】
「株式会社もりさんは、どんな会社ですか?」
お漬物の製造・販売をしています。
自社農場で野菜作りをするところから、工場でお漬物へと加工して、店舗で販売をするところまでを手掛けています。
「工場のボイラーを高効率のものに更新されたと聞いたのですが」
きっかけは、年次点検でした。使用年数が経っていて、劣化が激しくて交換の時期だと言われました。
高効率のボイラーに更新した方が、年間で考えるとメリットが出るということでした。点検した業者さんから補助金があることを教えてもらいました。
それで、2年前(2020年度)に本社と亀岡工場のボイラーを両方一気に更新しました。本社のボイラーは国の補助金(※1)を、亀岡工場のボイラーは京都府の京VER補助金(※2)を活用しました。この2か所同時更新で、計算では年間5トンのCO2削減になります。
亀岡工場のボイラーは、以前は灯油を使っていたため、ガスの使用量は1/3になりました。ガスの価格は倍ですが、トータルコストは下がります。エコにもなるし、補助金を利用することでトータル5~6年でペイできる計算だったと思います。
(※1)本社のボイラーは、国(SII:一般社団法人 環境共創イニシアチブ)の補助金を活用した。
https://sii.or.jp/
(※2)亀岡工場のボイラーは、京都府(知恵産業創造の森)の京VER創出促進事業補助金を活用した。リンク先は参考として2022年度のページ。
https://chiemori.jp/smart/support/y2022/r4_kyover.html
「ボイラーは何に使っているのですか?」
主に、熱処理と調味液の加熱の時に使います。
お漬物を作るときに、4~5割のものは熱処理して殺菌をしています。これはお湯にくぐらせてするのですが、そのお湯をつくる熱源としてボイラーを使います。
もう一つは、調味液を作る釜で熱を使っています。この2つがメインです。
ちなみに、亀岡のボイラーの方が大型で、熱殺菌が必要なものはこちらで加工します。本社では、熱処理がいらないものを主に取り扱っています。
「LEDへの更新もされたと聞きました」
昨年度(2021年度)、京都市の事業を活用させていただき、照明器具のほとんどはLEDになりました。電気代のことを考えるとLEDにするメリットは大きいです。
本社工場・本社三条店の建物は11年前に新築をしたものですが、その時はまだ蛍光灯でした。
使わせてもらった京都市の事業は、補助金ではなく組合に出た委託でした(※3)。京都府漬物共同組合の中で手を挙げさせてもらい、設備費1/3、工事費は全額などに充てることができました。
また、この時に省エネ診断も受けています。
その前にも、上限30万円ほどの京都市のLED補助金(※4)を使って太秦本店の店舗もLED化をしています。なので、LEDは2回補助金等を利用させてもらいました。
ちなみに補助金のことは、知恵森(※5)の担当さんに教えてもらいました。
(※3)令和3年度 京都市中小事業者省エネモデル普及拡大事業【過去のものです】
https://chiemori.jp/smart/support/y2021/r3-syouene.html
(※4)京都市省エネ照明・空調設備整備事業補助金(こちらは過去の補助金で、現在はありません)
(※5)一般社団法人 京都知恵産業創造の森 スマート社会推進部
https://chiemori.jp/smart/
「電力見える化システムも導入されたそうですね」
こちらも昨年度(2021年度)ですね。知恵森さんのスマートファクトリー補助金(※6)を使わせてもらい、亀岡の工場で全部見える化をしました。
店舗でも、見える化のモニターを設置しています。
(※6)令和3年度 スマートファクトリー促進支援事業補助金【過去のものです】
https://chiemori.jp/smart/support/y2021/r3-sf.html
「その他に省エネで実施されていることはありますか?」
現在(2022年度)、亀岡工場の省エネ対策としてカーテンの設置とキュービクルの更新をしようと思っていて、補助金(※7)を申請中です。この補助金は、昨年度に補助を受けた見える化診断で見つかった課題に対して、翌年設備投資をする際に1/3の補助が出ます。
カーテンは、熱遮断をするためもので、ボイラーから出る熱を夏は外に逃がし、冬は下におろして暖房に利用して省エネにつなげます。
キュービクルとは変圧器のことです。亀岡工場ではずいぶん長く使っており、電力供給が不安定になって製造効率に影響を及ぼすようになりました。長く使って古くなったキュービクルは、抵抗が強くなり、変換効率が悪くなります。電力ロスにもつながるので、こちらの更新は結果として省エネにもなると期待しています。
(※7)スマートファクトリー促進支援事業補助金(R4年度)【受付は終了しています】
https://chiemori.jp/smart/support/y2022/r4-sf.html
「上手に補助金を活用されていますが、活用のきっかけは?」
設備更新などは、できるに越したことはないですが、莫大な費用をかけられるわけではありません。
コロナで手が空いたというのも一つのきっかけです。「使えるものは何でもフルで使わないと」と思っています。現在は、国もコロナ関係でも補助金を出したりしていますよね。
申請の書類は、普段の企業で扱う書類とは違うので準備するのは大変ですが、経験することで何とかなりました。ものづくり補助金(※8)と事業再構築補助金(※9)もやりましたが、こちらは申請書類がとんでもなく大変でした。補助金の書類は、誰しもが納得できる書類にしないといけないので、仕方がないところはありますよね。
(※8)共創型ものづくり等支援事業
https://www.ki21.jp/kobo/r4/kyousou/index.html
(※9)事業再構築補助金
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/
まずこちらに何かやりたいことがあって、それに合う補助金を探します。補助金を見て、そういえばこれをしたら良くなりそうだなと思うこともあります。
今年度(2022年度)はエネルギー価格高騰もあって、補助金の競争率がいつもより高くなったとも聞いています。その前にできた分は、ちょっとタイミングが良かったなと思っています。
「エネルギー価格高騰の影響はどうですか?」
影響はあります。大変です。
うちは新電力に切り替えをしています。7~8年ぐらい前に、安くできるよという提案があり、契約しました。
ところが昨年からはだいぶ状況が変わり、激痛の月がありました。2022年1~2月あたりは、電気代が通常の5倍以上になり、びっくりしました。
そう考えるとデメリットのようにも思えますが、実際のところ、今後がどうなるかは分かりません。関西電力の新規の契約もできなくなりましたが、そちらが受け入れるようになったら新電力も安くなるような状況かもしれず、どこと契約するのが良いか、何がリスクになるかはなかなか分からないですね。
「補助金情報はどこから入手されているんですか?」
さっきもお話したとおり、知恵森の担当さんから教えてもらうことがあります。
他に、もりはオスカー認定(※10)を受けていて、そちらから補助金情報をもらっています。週に1回補助金の一覧が送られてくるので、それをチェックしています。
オスカー認定は、お漬物屋さんの認定がそれまでなかったということでお声掛けいただいたことがきっかけで申請し、審査などを経て認定をいただきました。
(※10)オスカー認定:公益財団法人京都高度技術研究所が実施
優れた事業計画(パワーアッププラン)により積極的に経営革新に取り組む中小企業を「オスカー認定」し、計画の実現に向けた継続的な支援を実施することで、京都経済の中核を担う中小企業を育成します。
https://www.astem.or.jp/smes/oscar
オスカー認定企業紹介(2020年3月認定)
https://www.astem.or.jp/smes/oscar/oscar_list/o202003#mori
「京都府3R支援センターさんのニュースレターで、バイオ生ゴミ処理機を導入されたという記事を拝見しました」
3R支援センターさんの取材を受けました(※11)。府議会からの見学もありました。
生ゴミを堆肥にするものはよく見かけますが、今回導入した生ゴミ処理機は微生物が分解してくれて水になり、下水に流すことができます。「ゴミが消える」のです。
製造上どうしても出てしまう生ゴミを8~9割も減らすことができます。ゴミとして処理する量が減るのは環境にも良いですし、処理費用も少なく済むので助かります。
もちろん生ゴミ処理機の購入費用はかかりましたが、3R支援センター(※12)さんの1/3の補助金を活用させていただくことができましたし、生ゴミ処理費用が減る分も考えると数年でペイできそうです。
(※11)該当ページはこちらからご覧いただけます。
https://kyoto-mori.co.jp/news/8910
(※12)3Rセンター:一般社団法人京都府産業廃棄物3R支援センター
補助金等
「太陽光発電も設置されています」
本社三条店の屋上には、面積の半分ぐらいにパネルが載っています。亀岡工場にも設置しています。
設置したのは、まだFIT制度で売電が高い時でした。
今年度、京都府でソーラーカーポート等を対象とした補助金(※13)があり、こちらが利用できないかなということを検討したこともあります。結局、該当しなかったのですが。
(※13)令和4年度京都府未利用地活用再生可能エネルギー導入促進事業補助金
https://www.kcfca.or.jp/uul2022/
「三条本店には、シェアサイクルサービス『PiPPA』のポートもありますね」
移動するときに自転車が便利だな、と思っていたときに、ちょうど営業の方が来られて、社長が決めました。社長自身が移動するときに良く利用しています。ここから京都駅まで移動するときに使ったりしているみたいですね。
駐輪場を使うよりも安いし、元の場所に返さなくても良い(ポートだったらどこに返却しても良い)ので便利です。
始めはとても気軽に導入したみたいですが、結構他の人にも使われているようです。
「亀岡の農場について教えていただけますか?」
創業者である祖父が「おいしいお漬物を作るために、おいしい野菜を作りたい」と、平成元年頃から自社農場(※14)を始めました。
一次産業の農業から、お漬物の製造、販売までを手掛けることになるので、いわゆる6次産業の走りのような感じでしょうか。始めた当時はそんな言葉は聞かなかったですが。
亀岡に、5反、8反、7反の3か所農場があり、総面積は2ヘクタールになります。委託はせずに製造社員が管理・作業をしています。コストはそれなりにかかっています。
農家さんと契約されてというのは多いですが、自社農場というのはなかなか無いと思います。
ただ、お漬物の野菜全てを育てているわけではありません。年中収穫するのは難しく、手を広げすぎると管理も難しくなります。
(※14)亀岡自社農場
https://kyoto-mori.co.jp/farm
「どんなお野菜を作っているのですか?」
漬物の専用品種がほとんどです。代表的なものは「青味大根」。京都の伝統野菜の一つで、土から上の部分が青い大根です。市場でたまに見かけることはありますが、作られているところはほとんどないと思います。なので、世界の生産量の大部分をうちが作っていると思います。
夏は、瓜や加茂茄子など。
冬は、青味大根の他に、千枚漬けにする聖護院かぶら。聖護院大根や壬生菜なども作ります。
あまり家庭では食べないものが多いですね。
「農場で大変なことはどんなことですか?」
夏は暑いし、冬は寒いし。大変ですよ。
でも、季節感や天候による作物の育ち具合と価格変動などが感覚的にわかるので、役立っている部分も大きいです。ちょっとした宣伝にもなります。
収益の面だけ見るとあまりメリットはありません。社員を雇って育てるよりも、必要な時に必要な量を買うのが一番安いです。でも、お金だけではないと考えています。
じつは、農場で働いているのは普段は1.5人ぐらいです。この面積をこの人数でやるのは大変ですが、省力化もしながら効率よくやっています。でも、大変です。
「農場でのこだわりはありますか?」
土づくりからしっかりやっています。緑肥をしっかり育てています。
緑肥というのは、ソルゴー、ヒマワリ、ムギなどの植物を育てて、漉き込んで土に戻したりすることで土壌改良をします。化成肥料をまくのは簡単ですが、そうではなく肥料になるような植物を育てるんです。有機肥料とも違います。
畑の下には硬盤(※15)という層があります。稲を育てるときには、これがないと水が全部抜けてしまいます。でも、大根などを育てるときは、硬盤があると根っこが当たってしまうため良くない。緑肥を育てることで、根が硬盤を砕く効果もあります。
へアリーベッチというマメ科の植物も育てています。マメ科特有の根粒菌をもっていて、これが空気中の窒素固定してくれます。肥料をたくさんまかなくても、土壌が豊かになります。
実は以前、タキイ種苗さんに勤めていたこともあり、その時の知識も活かしながら運営しています。
(※15)硬盤層
固くなって浸透性のない層となった土壌または下層土。稲作をするときは、これがあるので水をためることができる。野菜の場合は、例えば大根などはこれより下に育たなくなってしまう。
「農場が亀岡なのは?」
亀岡は気候が良いです。冬は霧が多いのですが、実は冬野菜は日照時間が短い方が良いのです。朝日は当たらない方が良いので、京都府の中でも霧の発生頻度が多い亀岡は、冬野菜にはピッタリの土地です。
「ホームページでは、お漬物レシピ(※16)も公開されていますね」
お漬物とレシピは相性が良いです。漬け液も全部調味料として使えます。捨てるなんてもったいない。ちょっとお野菜にかけるだけで、いつもと違う味になります。
刻みの柴漬けは、チャーハンにも使えます。他にも、マヨネーズと和えるだけでタルタルソースのようになります。唐揚げの衣に使うとさっぱり美味しい。
お漬物は味が付いていて、下処理が終わっているので、手軽なレシピが多いです。動画も好評です。
もりのホームページにはレシピ動画をたくさん掲載しています。私も、動画が簡単に作れるTikTokでレシピ動画を作ったことがあります。私がするのは、和えるだけ、パンに塗るだけなどの簡単なもの。動画も3分ぐらいのものでないと嫌になってしまいます。お漬物を上手に使うと、炒めるだけとかで簡単に出来てしまいます。
でも途中から女性陣もするようになり、手の込んだパンを作るとかも増えてきました。
こういったレシピ動画も楽しく取り組みながら、ご家庭での食品ロスにも繋がるような情報発信ができたらと思っています。
(※16)Mori’sキッチン
https://kyoto-mori.co.jp/kitchen
【おわりに】取材を終えて
森課長さんは、家庭菜園もされていて、このまえもサツマイモが大量にできたそうです。会社の優待会(毎年6月、11月に開催)で、獲れすぎたサツマイモをお振舞いされたとか。優待会では製造担当さんが考えた「お漬物グランプリ」をしたり、投票をしたりなど、楽しいイベントもされているそうです。
https://kyoto-mori.co.jp/news/7121
実は、最初は「補助金を上手に活用されて省エネを進められたこと」「自社農場があり、地産地消にもつながっていること」についてお聞きするつもりでした。
実際は、土づくりをしながら野菜を育て、エネルギー削減・生ゴミ削減をしながらお漬物を製造し、購入されたご家庭の食ロス削減まで、もっと幅広い活動をされていました(こちらも合わせてご覧ください。もりのSDGsの取組:https://kyoto-mori.co.jp/sdgs)
ステキなお漬物屋さんが京都にあることが嬉しくなりました。
(以上)