特集 事務局長の欧州気候変動対策探訪記
事務局長の欧州気候変動対策探訪記
オーバーエスターライヒ州の気候変動対策
9月に、欧州の気候変動対策の調査に行ってきました。
今回は、オーストリア連邦政府、オーバーエスターライヒ州の州政府や中間支援組織、小規模自治体、ザルツブルグ州の中間支援組織などです。オーストリアの調査後にはベルギーに移動し、EUのエネルギー部局等のヒアリングも行いました。
そんな中から、オーバーエスターライヒ州の状況について、少しご紹介いたします。
オーバーエスターライヒ州は、オーストリアを構成する9つの州のうちの一つ。オーストリア北部にあり、北はチェコ、西はドイツと接しています。州の人口は約145万人、面積は12,000平方kmです。京都府のそれが260万人、4,600平方kmですから、人口密度は京都府に比べて1/4くらいです。
州都はリンツです。皆さんは、リンツと聞いて何を思い浮かべますか。チョコレートでしょうか。私にとってのリンツのイメージは「鉄鋼のまち」。煙突が立ち並ぶ工業都市をイメージしていました。事実、州の工業出荷額は、なんとオーストリア全体の25%を占めています。
ところが、実際に行ってみると、リンツの旧市街は、古くからの街並みが残るとてもきれいなところで、路面電車やトロリーバスが多く走り回り、街は多くの人が賑わっています。そして、少し郊外にでれば、そこに広がるのは美しい田園風景(※田んぼはないけど!)。もちろん工業地域もあるのですが、訪問前のイメージは一気に吹き飛びました。
リンツの夜景
LRTが走るリンツの街並み
州は「エネルギー地域オーバーエスターライヒ2050」という目標を定めています。この中では、2030年には、電力消費に占める再エネ割合を80~97%に増加させることなどが掲げられています。日本の2030年目標が22~24%ですから、極めて大きな差がありますね。
これまで水力発電と風力発電を充実させており、再エネ割合はすでに77%に達しています。ただし、これらの新規開発の余地はほとんど無いことから、今後は建築物への太陽光発電の設置が重視されます。
もちろん、再エネ利用だけではなく、省エネも進められています。建築物からのCO2排出は、2005年~2016年の10年間で41%も減少しています。ここには、年間20億ユーロ(約2500億円)の投資が行われており、そのうち60%が断熱改修などの省エネに、40%が木質バイオマス暖房などの再エネに利用されています。州では、つい最近、新築建築物での石油暖房の利用が禁止されました。併せて、既存住宅向けに「オイルからの脱却」プログラムが実施されており、石油暖房から木質バイオマスボイラー等への転換のために手厚い助成が行われます。6月までの3ヶ月間で、1600件もの更新が行われたそうです。
こうした州の政策の実行を支えているのが、州が作る中間支援組織である「オーバーエスターライヒ省エネ連合」です。省エネ連合は25名のスタッフを雇用し、これ以外にも外部のコンサルタントと連携して事業を進めています(ちなみに、京都府温暖化防止センターの常勤職員は6人です)。省エネ連合は、人材育成、啓発など様々な取り組みを行っていますが、省エネ診断が極めて重要な役割の一つとなっています。委託している外部の専門家約40名と連携し、60~70人体制で、事業所、行政施設、そして戸建住宅の省エネ診断を実施しており、診断数は年間に1万件にのぼるそうです。耳を疑って聞き直しましたが、本当のようです。省エネ連合事務所でのアドバイスの他、様々なイベントでの出張相談会も実施しているようです。
診断によって省エネ改修のポイントを見定めつつ、改修のための助成金を紹介し、これによって地域の工務店や設備事業者の仕事を生み出しています。単に「省エネしましょう」と呼びかけるのではなく、政策とがっちり結びついているからこそ、好循環が生まれていると言えそうです。
省エネ連合の事務所の省エネ診断スペース
省エネ連合事務所の窓 トリプルガラス+外側のブラインド
最後に、省エネ連合のエヴァさんの、印象的なコメントをご紹介します。
「私たちは、エネルギー技術をリードする地域になるというビジョンを持っています。そのためのポイントがあります。それは、地域の脱炭素化によって『生活の質』を『保つ』のではなく、むしろ向上させること。つまり、脱炭素化がポジティブに認識されることが重要です。そして、建築技術やエネルギー技術における市場でリーダーシップを発揮し、投資を引き出すこと。その際には、市民、事業者、基礎自治体の全てと連携することが重要です」。