特集 山添町長に聞く 与謝野町「2050年CO2排出ゼロ」宣言
特集 山添町長に聞く 与謝野町「2050年CO2排出ゼロ」宣言
前号でご案内したとおり、京都府の西脇京都府知事は2月に「2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロ」を目指すと宣言しました。同様の宣言は府内の市町村にも広がっており、京都市長は府に先立って、与謝野町長は3月4日、宮津市長は6月4日、大山崎町長は9月25日に宣言を行いました。
今回は、与謝野町の山添藤真町長にインタビューをさせていただき、宣言の背景や、宣言に込めた想いを語っていただきました。
■宣言の背景についてお聞かせ下さい
2014年に町長に就任してから本日に至るまで、台風や豪雨の対策を幾度も幾度もやってきました。この間、与謝野町でも、想定をしていなかったような雨量が観測され、問題の根本はどこにあるのかを考える機会が多くなってきました。世界の自然災害の情報を分析し、「根本的な原因は地球温暖化にある」という考えが強まってきました。
私にとって印象的な事例がありました。町内の山間に、障害を抱えた方が古くて脆弱な家に住まれており、大雨に見舞われた折、危険な状況にあるということで避難を余儀なくされたのです。「気候変動は、社会的に弱い立場にある人にこそ影響を及ぼしている」と実感しました。
このような状況を受け、2018年8月に気候変動に関する「世界首長誓約」に署名しました。与謝野町は小さな町ですが、日本・世界の首長さんと連携させていただき、またこれをきっかけに、町の中でも気候変動対策に対する機運を高めたいと思ったのです。ここからの2年間で、「実質ゼロ」に向けた機運が盛り上がってきて、今回の「2050年までに二酸化炭素排出量実質ゼロ」の宣言に至りました。
2月に開催された「京都地球環境の殿堂」において、恥ずかしながらメアリー・ロビンソン氏の「気候正義」の概念を初めて知りました。先程お話した身近な経験と照らし合わせて氏のお話に強く感銘を受け、またこの概念が多くの方に受け入れられつつあることを知って勇気をいただきました。
■「ゼロ」の実現は簡単ではありませんが、それでも宣言に踏み切られたのはなぜでしょうか
対策は、当然ながら町のすべての部局、町内のすべての事業者・町民の方との共同作業でないと進められません。町長としての重要な役割は、「この方向に向かってやっていこうぜ」と鐘を鳴らすことだと思いました。これが首長誓約のときの想いです。そこから2年間の取組の積み重ねもありましたし、住民のみなさんがCO2削減のために自ら行動を起こしておられる姿を日常的に直接拝見し勇気づけられてもいます。ですから、今回の「ゼロ宣言」自体には、大きな苦労はありませんでした。
でも、重要なのはこれからですね。理念をどうやったら多くの皆様と共有できるか、そして、実現に向かえるか。同じ方向を向かえる仲間を増やして、進んでいきたいと思っています。
■実現に向けた取組を教えて下さい
まずは、「2050年ゼロ」という目標を共有することが最も重要だと思います。ゼロを実現した町の絵姿について、またそこに至る道筋については、まさにこれから策定する「地球温暖化対策実行計画区域施策編」の策定プロセスにおいて、「よさの百年の暮らし委員会」の委員の皆様を中心にご議論いただき、これを尊重する形で描いていきたいと考えています。もちろん、議論には科学的根拠が必要です。必ず根拠に基づいて対策を進めなければなりません。科学に基づく議論を、町民の皆様と続けていきたいと思っています。
町役場としては、実はすでに染色センターと織物技能訓練センターで使用する電力を、再生可能エネルギー由来のものに変更しました。これは、単にCO2をへらすだけの取組ではありません。実は、電気代の一部は、伝統産業の発展に携わる人達の支援に使われる仕組みになっています。与謝野町のまちづくりに親和性がありますよね。実は、電気代も従来よりも安価に抑えられる予定です。
■最後に、町民の方をはじめ、皆様へのメッセージをお願いします
まず重要なのは「ゼロに向かう」という目標の共有です。一つの自治体が単独で取り組んでも「ゼロ目標」は絶対に実現できません。ですから、お隣の宮津市長の「ゼロ宣言」も、非常に嬉しく、大きな力をいただきました。まずは、この目標を掲げる自治体や、賛同してくださる人を増やすことが重要です。ぜひ皆様の周りでも、こうした取り組みの輪を広げていただければと思います。
次に、2050年のイメージを共有することが重要です。与謝野町では、おからや魚のあらを使った有機肥料でのお米づくりを進めており、栽培されたお米は、国内のみならず海外でも高い評価をいただいています。自然の恵みを大切にして、美しい農地を守っていくことが、町のブランド価値を高めています。産業振興につながっていくのです。気候変動対策に関しても、町の産業を守り、この町で作られたものが評価される仕組みをつくれると良いですね。
与謝野町の子どもたちにまちの好きなところを聞くと「美しい自然環境」と答える子が多いです。豊かな自然を守り、その自然の恵みを活かした「脱炭素型の与謝野町」のイメージを、町民の皆様と一緒に描き、実現していきたいと思っています。ぜひ一緒に議論し、取組を進めてまいりましょう。