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【特集】持続可能で強靭な「幸せを感じて幸せを生きるまち」を次世代へ引き継ぐ 大橋福知山市長に聞く 脱炭素社会への取組

持続可能で強靭な「幸せを感じて幸せを生きるまち」を次世代へ引き継ぐ
大橋福知山市長に聞く 脱炭素社会への取組

将来をみて、何をすべきか常に考えてSDGsに取り組むまち福知山市。
今回はその福知山市の大橋市長に、脱炭素を進める福知山市の施策と、その施策を進める背景にある市長の思いをインタビューしました。

 

Q、なぜ、脱炭素に取り組むのでしょうか?

◆未来に引き継ぐ!

そもそも我々行政は、このまちを次世代にあるいは未来に引き継いでいかなければならないという思いで行政としての取組をしています。未来に引き継ぐと言っても、取り巻いている環境問題も含めて、きちんと引き継げる状態にしていかなくてはいけません。持続可能性という観点では、環境問題、とりわけ温暖化防止が重要です。ただ、地球温暖化に対しては、基礎自治体が何かをして平均気温を下げられるといったものではなく、地球規模で取り組むことが必要ですが、基礎自治体が率先垂範となって進めていく事で、市民の皆さんの共感を得ながら、まちぐるみで対策を進めていける状態にしていきたいと思っています。
また、行政というセクターだけの問題ではなく、2006年に始まった国連責任投資原則(PRI)で、今や環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮したESG投資が世界の主流になっているように、経済界自体の問題でもあります。
さらに、その活動に賛否はあるものの、気候変動対策を求める「未来のための金曜日」の活動をしたグレタ・トゥーンベリさんのように、未来をつくる次世代がこの地域でしっかり頑張れるよう、そして幸せを感じて、また安心して生きられるように基礎自治体として取り組む必要があると考えています。

 

◆環境と経済 企業も環境に取り組む時代 そしてコロナ禍からのグリーンリカバリー

つい先日、市内の企業様と話をさせていただく機会がありましたが、「この頃、取引先から、環境に優しい素材を使ってもらわないと困るということを言われる時代になってきた。福知山市が環境問題について非常に積極的に取り組んでいることは、市内立地企業にとってありがたい。」というお話をいただきました。
消費者によるエシカル消費という活動もありますし、企業でも環境に積極的に取り組まない、あまり関心がない企業というのは、それこそESG投資を受けられなくなり、企業を発展させていくのはなかなか難しくなるだろうと思います。
例えばAppleは取引企業にRE100(電力の再エネ100%化)に取り組むよう要請していますし、それが出来なければ取引企業が継続できなくなることになろうかと思います。
環境に積極的に取り組んでいるまちだということは、企業にとって経済的な意味で利益を生み出すことにつながると思います。単に環境問題だけを捉えるのではなくて、環境と経済は結びついている。こういう取り組みは、以前からありますが、今コロナ禍の中では「グリーンリカバリー」とも言われていますので、さらに進めていくことが必要になると思います。そういう環境を作っていくのも市の役割だと思っています。

 

 

Q、具体的にはどのような取り組みをされているのですか?

◆宣言はきっかけ、何をするかが重要「再エネ・省エネ」を進める

福知山市では、ゼロカーボンシティ宣言やRE Action(※1)に参加しています。ただ、こういった宣言をすること自体に大きな意味があるわけではなく、実際にその後に何をするかが重要だと思っています。
まずは自分の足元からと、市の高圧受電の43施設を再エネ電気に切り替えています。今後もできるだけ全施設を切り替えていこうと思っていますが、切り替えるだけでなく再エネ電源を保持していく事も非常に大事だと思っています。
そこで、昨年度(令和3年度)、福知山市の三段池公園にある総合体育館と武道館、そして学校給食センターの屋根に市民出資を財源の一部としたオンサイトPPA(※2)で太陽光発電の設置をしました。これは、福知山市と地域新電力のたんたんエナジー株式会社をはじめ、京都北都信用金庫、プラスソーシャルインベストメント株式会社、龍谷大学「地域公共人材・政策開発リサーチセンター(LORC)」の5者協定により実施することができた事業です。
行政だけでやるとか、どこか単独のところだけでやるというのではなくて、色々な方と一緒になって課題解決をしていこうというものです。さらに市民の方々にも、より強く意識を持っていただいて参加してもらうことも、非常に大事なことだと思っています。市民も事業者の皆さんも一緒になって、市全体で取り組めるまちにしていきたいと思っています。
温暖化防止だけではないですが、SDGsの達成をめざす取り組みとして、福知山市内で地域課題解決に取り組むNPO法人・団体・教育機関等や、SDGs達成に向けた商品サービスの提供・開発、課題解決活動などに積極的に取り組む企業に「福知山市SDGsパートナー」としてご登録いただく制度があります。現在38の団体と企業にご登録いただいて、地域課題解決に向けて一緒に取組んでいます。
市独自では今、福知山市の地域公民館を順番に改修していますが、避難所の役割もあるので、太陽光パネルと蓄電池を組み合わせて設置し、自立型の施設に改修を進めています。
市では、道路灯、街路灯は100%LEDに切り替えています。建物も順次LED化を進めているところです。
またEV100の計画も作り、昨年度、EV(電気自動車)3台とPHEV(プラグインハイブリッド)を1台導入しました。今年度はEVを3台導入予定です。2040年をめどに特殊車両を除き、市のすべての車両をEVへ切り替える取り組みを進めています。
エネルギー関係では、年間200億円ぐらいが福知山市外へ流れているという試算もあります。そこで電源の問題をどう考えていくかが重要となり、再エネに切り替え、省エネを進めているところです。

(※1)再エネ100宣言
(※2)「PPA(電力購入契約)」とは、Power Purchase Agreementの頭文字を取った略称。発電事業者や小売電気事業者と電力の使用者(需要家)との間でおこなわれる、主に再生可能エネルギーの発電・電力売買するための電力契約。再生可能エネルギーを使用者の敷地内に設置するのがオンサイト、電力を利用する場から離れた敷地に発電設備を設置するのがオフサイト。

 

◆多岐にわたる取り組み 汚泥処理、みどりのカーテン、バイオマスプラスチック

福知山市では、下水道の汚泥の新たな再処理施設をつくり、令和8年度からの稼働を予定しています。今まで焼却処分をして埋め立てていたものを、固形燃料化します。これによって今の焼却埋め立て処理と比べて約65%の温室効果ガス削減効果があります。
従前からのゴーヤやヘチマでの「みどりのカーテン」の普及についても、福知山環境会議が主体となっていただき、「みどりのカーテン実施率日本一」をめざして続けて頑張っているところです。
今年度からは市役所窓口のボールペンを、プラスチック代替素材の石灰石から生まれた環境に優しい新素材を使用した製品に変更しました。また、燃やすごみ袋をバイオプラスチック25%配合の袋へと今年度から変更させていただく予定です。
さらに、パナソニックグループが開発した植物繊維(セルロースファイバー)を55%以上の高濃度で樹脂に混ぜ込んで作る「人と環境に優しい給食食器」を、学校給食に取り入れました。これには福知山市内の森林の間伐材が食器の原材料として使われています。小中学校児童生徒の環境問題への理解を深め、地域資源の魅力を再発見して、まちへの誇りや愛着・シビックプライドの醸成を図るといった環境教育の取り組みも進めていくためにカリキュラムを検討しているところです。

 

◆吸収源としての森林を強化

福知山市は非常に森林率が高いのですが、木材の利用についてはコストの問題が非常に大きく、日本は多くの場合、外材頼みというところがあります。昔、分収林(※3)も含めて国が造林政策をされた際に、植林をされた森林があるのですが、それらはすでに伐るべき時期を過ぎた長伐期になってしまっています。長伐期になってしまうと吸収源としての役割を果たしません。これを、皆伐をして再造林をして、また育てていくという循環サイクルを作っていかないといけないと思っています。それで今年度から循環型森林整備モデル事業を始めました。新たに植林をしていくことプラス、森林経営をする、管理をする、間伐をすることによって、また吸収源としての役割を果たしてくれます。そこで出てくる間伐材をパナソニックさんにも使ってほしいと思っています。

(※3)分収林とは、国以外の者(造林者)が契約により、国有林に木を植えて一定期間育て、成林後に分収木を販売し、その収益(販売代金等)を国と造林者とであらかじめ契約した一定の割合で分収する制度

 

Q,市長が取り組み始めたきっかけは?

◆持続可能な福知山をつくるために市長になった

私自身としては、まちの未来や持続可能性は大きな問題だと思って市長に就任させていただきましたが、目の前の一番大きな問題は財政状況の問題です。これは持続可能性で欠かせない問題です。ただ、財政の問題がもちろんベースにありますが、それだけではありません。持続可能性のために、未来に対する責任としてやはり温暖化対策の取り組みが当然必要だと思います。元々は府議会議員の時代から環境問題あるいは森林の問題も含めて取り組んできました。

 

Q,この活動を通してどんなまちになってほしいですか?

◆幸せを感じて幸せを生きるまち

今の時代、いろんな課題があると思いますが、人口減少や人口構造の変化があって、これってなかなか止めようがない。ただ、そこで暮らしている人たちが安心感を持って「幸せだよね」と思えるまちにしていくことは重要だと思います。
今年の4月から「まちづくり構想福知山」が新たにスタートしていますが、2040年をターゲットにしながら変わっていく時代の中でも、中心にしたいのは、幸せを感じて幸せを生きるまちにしていきたいという思いです。そこには、持続可能性の問題であるとか、都市の強靭さっていうのも当然必要になってくると思っています。
特に福知山は災害の多いまちですので、環境に関わる問題も未来を考える上で大きなウエイトを占めてると思っています。気候変動によって災害が多発し激甚化し、局地化する、集中化するという中で、適応したまちづくりというのが、まちづくり構想の前提にもなっています。
今は、少しでもいろんなことに取り組みながら、次の世代によりよい未来を引き継いでいきたいという思いです。