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【特集】若者発の「あなたと999人の気候マーチ」を取材しました!

若者発の「あなたと999人の気候マーチ」を取材しました!

気候危機が深刻な状況だからこそ、たくさんの人がつながることが大切。
そのために若者たちが企画したのは「ポジティブな発信をするための気候マーチ」です。

このマーチは、Fridays For Future Kyoto(以降FFF京都)のメンバー、気候変動の解決に向けて活動する若者達によってオーガナイズされたアクションです。

※ Fridays For Future(未来のための金曜日)は、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(当時15歳)が2018年に国会前で行った一人ストライキをきっかけにはじまった世界的なムーブメント。その活動の中で、世界各地で若者が気候変動対策を訴えて気候マーチをオーガナイズしており、世界同時開催のものからローカルなものまで行われています。

●●あなたと999人の気候マーチ概要

* 開催日:2023年10月7日(土)
* 主催:FFF京都
* 集合場所:円山公園 ラジオ塔前
* 開催内容:15:00 アクション開始(円山公園 ラジオ塔前)
交流会、スピーチ・リレー
16:00 気候マーチ出発
河原町四条 通過
17:00 気候マーチ到着(京都市役所前)、解散
* 持ち物:ご自身の思いを表現したプラカード

FFF Kyoto Facebook画像より

FFF Kyoto Facebook画像より

●●当日の様子

今年の夏〝暑すぎ〟と思った人、約230名の参加者が集まりました。
15時の時点で沢山の人が集まっているなという印象で、オーガナイザーであるFFF京都共同代表の進藤天真さんの挨拶で始まりました。

スピーチ・リレーの前に挨拶をする進藤天真さん

「今年もすごく暑かったので気候危機を体感されていると思います。

人間の活動によって引き起こされている異常な気候の変化は、全ての命に影響していて、もう既に世界各地で様々な影響や被害が出ています。そうした気候危機が危機だというシンプルな危機感を、改めて市民の間で共有して、若者、市民として声を上げていくことが必要ということと、ボトムアップの変化を起こすのであれば、早い段階で市民が繋がって声を上げていくことが必要で、それが今回のアクションの目的になっています。

今回のマーチは、FFF京都のオーガナイザーだけでなく、当日の実行委員として同世代の方や、大人の方のサポーターだったり、賛同者は約110名集まっています。その方々1人1人の思いによって、今回成り立っていることに、心より感謝申し上げます。

ポジティブな未来をここから発信していけたらと思っているので、ぜひ皆さんも楽しんでアクションに参加して頂きたいと思います」。

●スピーチ・リレー

スピーチ・リレーの一人目は、気候ネットワークの田中十紀恵さんでした。
田中さんからは、気候危機の現状が話されました。

「今年の夏は観測史上一番暑く、気候変動のネガティブな影響が大きい」ことを指摘。「温室効果ガスの増加により、大気中の温室効果ガス濃度が上昇し、地球が暖かくなることによる様々な影響があり、海面上昇、生態系への影響、猛暑、洪水、山火事など、今年はリビアやカナダ、ヨーロッパ各地、アジアなどで気候変動の影響があった」とのこと。

「世界各地で気候変動の影響で、年間平均2,000万人以上の人が、今まで住んでいた所を離れざるを得ない状況に追い込まれています」。今まで大切にしてきた文化や伝統的な生活が失われるだけでなく、その影響は多岐に渡ると言います。

「気候の科学では、地球温暖化は人間活動が原因であることは疑う余地がない、ということも分かってきました。
地球温暖化を抑えていくためには、科学的な知見を受けて化石燃料の利用をやめていく方向性が示されていますが、日本では石炭火力発電所が現在171基運転中で、新しい計画も出てきています。温暖化対策として原発が進められていますが、高価で何よりリスクが高い。また設備を維持していくためにエネルギーを大量に使うので、CO2の排出も増えてしまい、これも温暖化対策になり得ないと考えています」。

「科学が進歩して、日本の豪雨災害も、6月の猛暑も、気候変動の影響があると分かってきました。気候変動というのは、今ここで目の前で起こっている危機であるということは重要なことで、それを本当にどうしていくのかという問題に私達は直面しています。しかし、地球温暖化は人間が起こしたものなので、私達で止められるはずです。今回、気候危機に関心のある人が沢山集まったというのはとても心強いことであり、つながって一緒に声を上げられるのはとても嬉しいと思います。今日は楽しんでマーチをできればと思います」。

二人目のスピーチは、過去のマーチには全て参加したという西山渓さん(開智国際大学講師・関西大学研究員)でした。

「みんなで楽しくマーチをして気候変動問題を一緒に伝えていくことで、政治がもう少しみんなにとって身近にアクセスしやすくなって、新たな政治の文化を作ることができるのではと思います。

また、僕が今日一番言いたいのは、このマーチは、京都に実際に生きていて、生活をして活動している若者たちが中心になって組織されているということです。僕たちがこういうムーブメントを見ると、グレタさんのあの運動でしょうと色眼鏡で見てしまいがちです。でも、今日これだけ多くの人を集めたのは、決してグレタさんのコピーなんかじゃなくて、ここ京都で毎回頑張っている若い人たちが声を上げているということです。だから若い人たちがこの京都で見つけた問題を、そのままの声をぜひ受け止めて、一緒に活動して頂けたらと思います」。

三人目のスピーチは、松田のぞみさん(FFF京都共同代表/オーガナイザー)でした。

「今年は、最も気候変動の深刻さを感じた夏でした。国連のグテーレス事務総長が地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代に突入したと宣言され、過去12万年の中で一番暑い平均気温だと報道されました。少しずつ気候変動が、異常な暑さや頻発する洪水など、確実に命の危機になってきています。

また、私は被害面だけでなく、この日本に暮らしていて、加害面についても考えさせられます。毎日の生活で環境負荷に加担し、他の人や、自分よりも後に生まれて来る人の未来や安全を奪っているのではないかと感じます。日本で普通に生活するだけで、多くのCO2排出に加担することとなり、自分が加害していると感じます。個人の選択に任せない社会の仕組みが必要だと思います。私達は、命の危機ではなく、生きられる環境を求めます」。

四人目のスピーチは、ハッピーアースデイ大阪で活動している渡辺晏子さん。(当日実行委員)

「このマーチで何が変わるのかと疑問が浮かんだ方もいると思います。だけど、実は私達がこのマーチを通して「希望」になれることも、私は知っています。今の社会に生きていて、地球温暖化や気候危機を感じずに生きることは不可能で、生活していく中で、危機感や不安感を持つようになった」のではと言います。

「だけど、今この瞬間、この場所でそういう不安な感情に押しつぶされそうな方、いらっしゃいますか。スタンディングやマーチは、唯一私達が無自覚に安心できる場所だと思います。もし仮に今、不安に押しつぶされそうな方がいらっしゃっても、ここではみんなで共感し合えます。これはマーチに参加していない人にも必ず届くことです。

環境問題に関心を持ち始めてから、自分には何ができるのだろうか、誰が一緒に解決してくれるのだろうかと、1人で抱えて辛かった瞬間があるはずです。少なくとも、私はそういう時期に気候マーチに出会いました。私達がここにいて、私をここにいさせてくれるのが、マーチの持つ「希望」だと思います。皆さんでこの時間を素敵なものにできたらいいなと思います」。

●マーチ

円山公園を出発。

スピーチ終了後、16時に円山公園を出発。四条通りから河原町通りを経て京都市役所前まで歩きました。

誰もが参加しやすくて安全で楽しいマーチにするために、事前にオーガナイザーからは、SNSを通じて当日ガイドラインが拡散されており、プラカードやのぼりの内容に関する差別的、攻撃的と捉えられる表現の自重を求めたり、参加に不安がある方のために撮影が禁止されたセーフティー・ゾーンを設置したり、きめ細かな配慮がされていました。

実際に一緒に歩いていて、参加している皆さんのとても楽しそうな雰囲気と和気あいあいとした様子がとても印象的でした。
歩いている最中に飛び入りで参加してくる若者もいたほどです。余っていたプラカードを貸して欲しいと言われて、お貸ししました。

飛び入り参加がいたということは、ポジティブで楽しい雰囲気が周りにも伝わっていて、一緒に声を上げることの敷居が低くなっていた証拠だと思います。

●インタビュー≪進藤さん≫

進藤天真さん(FFF京都共同代表/オーガナイザー)に直接インタビューしてお話を伺いました。

「今回は、若者として企画していて、特に明確な目的や求めたいことは掲げずに、共有できる最小公約数的な危機感をもとに多くの人と繋がろうと企画しています。“気候マーチ”という形で、デモのイメージとは違ったポジティブで柔らかい参加しやすい雰囲気で開催できたらいいなと思っています」と進藤さん。そういう点は、周りからもプラスの意見が多いそうです。
「楽しく安全に活動しやすい場所を作るのがFFF京都の役割というか、今までの活動で培ってきたものの1つだと思います」と、市民運動に初めて参加するような方にも、「声を上げていいんだ」と思ってもらえるようなアクションにしたいと話します。

「今までと大きく違うのは、企画の段階から、大人の方に加えて、色んな団体や個人で活動されている10名の同世代の方とも“当日実行委員”という新しい枠組みを作って一緒に企画を進めてきました。FFF京都のオーガナイザーだけでなく、色んな人の協力があっての今回の気候マーチです」と、多くの市民の方に参加してもらえるように準備したそうです。
「気候変動の運動は、グレタよりもはるか前から、COP3の時もそうですし声をあげてこられた方達がおられて、そのネットワークやノウハウもあって、今回、若者以外のアクターと繋がれたことは、とても心強く希望を感じています。」とポジティブに語ります。

進藤さん自身は、「グレタの本を読んで気候危機を知り、その問題の大きさや影響の甚大さにショックを受けて活動を続けてきました。」しかし日本国内では、気候危機に対する認識が低く、危機として認識されないまま、取り返しのつかないことになってしまうことに大きな焦りを感じているとのこと。

「私がFFF京都で活動を始めて4年経ちますが、今年の夏の暑さもそうでしたが本当に年々深刻な状況になっています。雑誌「世界」の特集で江守正多さん(※1)が、『早ければ2030年代前半には平均的にも1.5℃に到達してしまう』と書かれていました。」

(※1: 2022年より国立環境研究所地球システム領域上級主席研究員、東京大学未来ビジョン研究センター教授。専門は気候科学。気候変動に関する政府間パネル:IPCC第5次、第6次評価報告書主執筆者。)

「危機的状況になった時には、トップダウン的な対策が行われますが、それでは社会的に弱い立場の方や、非特権的な立場の人達の命は二の次になってしまうと懸念されます。そのため、気候危機が解決した社会を市民1人1人が想像して、それを声に出し行動で可視化していく必要があり、自治体等はそうした声をもとに気候変動対策が進められていくべきだと思います。
また市民の権利が守られた形のボトムアップの変化を求めるなら、取り返しがつかなくなる前のなるべく早い段階で行動しないと。市民の声を可視化する重要性を今本当に感じているからこそ、今回気候マーチという形で、今必要な最小限の1000人という数を打ち出しました」。

気候危機を「SF映画のように急に雷が無数に落ちてきたり、20メートルを超えるような津波がやってくる危機ではなくて、自分達の目の届かないところで被害が増えて、気づいたら自分のところにもやってくるというような。想像力がないと認識できない静かな危機」ではないかと指摘し、「多くの人が気がつかないうちに既に『1.5℃を超えます』というようなことが実際に起こるのではと懸念するため、気候マーチだけでなく色んな機会に市民が繋がって情報を共有していくことが必要では」といいます。

FFF京都の活動をやり続けることで実際に変わってきたこともあるそうです。
「社会のシステムは大きくは変わってはいませんが、自分の周りでは感じる変化もあります。今回のマーチを通して繋がりは大きく増えました。個人的なことでは、母親には今までは遊びの延長と思われていたFFF京都の活動ですが、この気候マーチに参加してくれることになりました。大学の先生が、今回のチラシを授業の前にスライドに出して5分共有してくれました。フェイス・ツー・フェイスでつながる繋がりがちょっとずつ増えて広がってきているというのが、自分の中では大きな活動の意義になっていて、活動を続けている1つの理由だと思います」。

FFF京都のビジョンとして掲げられているのは、気候危機を解決した社会ではなくて、「価値観を共有した社会」となっています。
「気候危機というと、多種多様なところに影響を与えていて、色んなところに原因があって一見ネガティブな印象が強いですが、だからこそムーブメントを通して、色んな人と繋がることができたり、インターセクショナルな視点や価値を共有できたり、それぞれの問題に一緒に取り組んでいける可能性がある」と言います。
「気候危機を解決した状態とは果たしてどういう状態なのかを、一緒に考えてその価値を共有していく。社会的な良し悪しで判断するのではなく、一人の未来像として互いに共有し合いながら、ずっと模索を続けるというプロセスをビジョンに掲げて活動しています」とのこと。

「FFF京都の運営自体も、自分たちが求めるものを体現していきたいと思っているので、ミーティングの中でも、多数決はできるだけしないようにしています。それぞれの意見から、折衷案をどうやって生み出し、みんなのベストにしていくのか、ということを大切にしています。その分とても時間はかかります」と笑います。
「でも、自分たちが大切にしたいことを体現していきながら、自分たち自身にも希望を持ちながら活動を続けていけたらいいなと思うので、ビジョンもそういう形にしています」。
「社会の中で、自由に声を上げられるのは“若者”だけでなく、“市民”という立場も同じだと思います。普段何をしていても、たとえ化石燃料会社に勤めていたとしても、一旦肩書を置いて一緒に路上に立ってくれるということは、とても大きな意味があると思います。若者に賛同をして終わりではなく、年齢、思想、立場に関係なく、全ての人が一緒に声を上げていくことが、大切なことだと思います。まずは行動することで、あとから繋がりもできて知識もついてくるという面もあると思います。自分も毎回学びながらです。ぜひ一緒に行動して希望をつくっていきましょう!」

●インタビュー≪松田さん≫

松田のぞみさん(FFF京都共同代表/オーガナイザー)

活動を始めたきっかけは、「大学の授業で途上国と先進国の格差について学ぶ授業があり、ファストファッションを知ってとてもショックを受けました。それ以外にも何かを犠牲にしているのではと調べていくと、動物実験や工場畜産など自分が生きるために沢山の命や権利を犠牲にしていると気づきました。とても落ち込みましたが、今それぞれの問題を知ったからこそ、例えば、動物実験をしていない商品を食べたり買ったりして、その問題だけの解決はできるかもしれないと思いました。しかし、それ以外の問題は解決できないし、気候変動に関しては、自分がCO2を排出し続ける限り、加害し続けると思いました。さまざまな問題がある中で気候変動は一番大きく、多くの問題を包括する問題だと思ったので、活動したいと思うようになりました」とのことです。

今回のマーチ等を通して、「まずは、気候変動や気候危機の意味を知ってもらいたいです。「暑いよね。」と言った時に、そこで終わらずに、人間の活動による加害の結果この暑さなんだ、気候変動の影響なんだ、というところにまで繋がるぐらいの知識を、少しでも知ってもらいたい」と言います。

松田さん自身は、「一番CO2を排出しているエネルギーの分野の排出量を少なくすることができたら一番いいなと思っています。細かい部分の議論は置いておいて、とにかくCO2をできるだけ排出しない選択をして、加害をしない仕組みにできるだけ早く移行してほしい」と一刻も早いエネルギー分野の脱炭素化を望んでいるとのことです。

●インタビュー≪西山さん≫

過去のマーチには全部参加していて、スタンディングは55回参加しているという西山渓さんにお話を伺いました。

「子どもや若者のような政治の中で弱い立場の人たちが、日本で参加しているということ自体がすごいと思います。でも、そんなかで大人が何もしなかったり、遠くから「頑張ってね」と言うだけでは、見捨てていることと同じです。気候変動に取り組むには、制度的なところは大事だけれども、若者の立場からボトムアップで文化を作るようなことも大事です。僕はこれまでその両方の研究をしてきたこともあり、何か一緒にできることがないかなと思っています。」と語ります。

そして、「まずは彼らの声に耳を傾けて欲しいなと思います。この運動は、この京都で生きていて、京都で生活している人達じゃないとできない運動で、オーガナイザー達が伝えたい京都のローカルな問題意識があります。運動を見ると、どうしても色眼鏡で見てしまいがちです。今回上げている声を、先入観なしに聞いて欲しいと思います。」と、同じ京都に住む市民が声を上げているのだと強調します。

■最後に

マーチが終わった直後に、進藤天真さんから一言を聞きました。

「今後も約230人の方との繋がりを継続しながら、また新しい方達を巻き込んでいく第一歩にできればいいなと思います。ポジティブな雰囲気はとても良かったと思います。ですが、今回の人数だけでは気候危機の解決に必要な変化は起こせないので、1.5℃を諦めず、また声を上げる機会を作っていきたいと思います。ありがとうございました」。