【特集】乗ってわかるEVのいいところと今後への提案
実際にEVに買い替えた体験談や、
講師:伊東真吾氏(一般社団法人 市民エネルギー京都 専務理事)
本記事の中の情報や数値は2024年1月ご講演時点のものです。
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EV(電気自動車)については、「どの程度CO2排出削減になるの?」「本当に普及するの?」など、色々な議論がされています。しかし、脱炭素を進めていくためには、EVへの転換は不可欠になるでしょう。
そのためにどうしていくのか。色々なデータや、私のEV体験(昨年、中古でテスラモデル3を購入)を踏まえてお話したいと思います。
EVはどの程度CO2排出削減になる?
●●製造段階
製造段階で必要なエネルギーを見ると、EVの方がガソリン車よりもCO2を多く排出することが分かっています。
グラフを見ると、EVは、バッテリー製造時のCO2排出量(オレンジ色)の割合が大きいことが分かります。EVはバッテリーが大きく、バッテリー製造に電気エネルギーがたくさん必要だからです。
●●走行時を含めたCO2排出量は
ガソリン車は、走行でガソリンを消費した分のCO2が排出されます。しかし、EVは走行時に使った電気の量だけでなく、その電気を作るのにどれぐらいCO2を排出したのか(発電方法)によってもCO2排出量が違ってきます。
もし、石炭火力発電で作った電気100%でEVが走った場合、製造時+走行時のCO2排出量は、EVが他の車よりも多くなります。
しかし、例えば排出係数0.4(現在の関西電力がそれぐらい)の電気で計算すると、だいたい5万km以上走ると、下記のグラフのようにハイブリッド車とEVのCO2排出量が逆転して、EVの方が少なくなります。
HEV……ハイブリッド車。薄い赤、青、緑の線
BEV……EV。濃い赤、青、緑の線
●●コスト(金額)と、CO2排出量を調べる
マサチューセッツ工科大学の「カーボンカウンター・ドットコム」というサイトがあります。
https://www.carboncounter.com/#!/explore
任意の値(例えば、○万km走った場合はどうなる?等)を入れると、自動でグラフができます。縦軸はトータルのCO2排出量、横軸はトータルコスト(車両代金とエネルギー代金)です。丸の一つ一つが車種になります。黒は化石燃料車、赤はハイブリッド車、黄色はEVです。
例えば、電気排出係数を0.31にして、総走行距離を10万kmにしたところ、以下のようになります。
EVを再エネ100%で充電した場合は、以下になります。
トータルで考えると、コスト(金額)もCO2排出量も、EVが低い傾向にあることが分かります。
●●ライフサイクルコストとCO2は、今後どうなる?
将来的には、バッテリーや車体を製造するときに使われる電気を再エネにすることが、これから進んでいくでしょう。また、進めないといけないと思います。
例えば、私の購入したテスラモデル3は、いま上海で製造をしています。先日、北京から飛行機に乗ったときに、唐山(トウザン。北京の東側)の沖に洋上風力がたくさん出来ているのが見えました。中国の沿岸部は、昔は石炭火力ばかりでしたが、今はかなり風力などの再エネが増えてきています。
こういう再エネを工場の電気として使っていくと、製造中のCO2排出を下げていくことが期待できます。これは中国に限らず、どこの国でも期待されています。
●●カーボンニュートラルに必要なエネルギー種の転換
EVの製造時も走行時も再エネ由来の電気にして、CO2排出量を減らして脱炭素にしていくことは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書にも記載されています。
下のグラフは、2050年カーボンニュートラルに向けて、どのような削減対策を積み上げていく必要があるのかを示しています。真ん中のラウンドトランスポート(モビリティ)つまり移動の分野では、エネルギー種を転換していく(=化石燃料車から電気自動車に変えていく)ことが、大きな割合を占めています(赤丸をしている部分です)。これを進めないと、カーボンニュートラル達成が難しくなってくるということです。
●●世界と日本のEV普及の状況
新聞やWEBメディアで、EV普及に対して、短期的にネガティブな報道を見ることがあります。
しかし、まず現状としてどれだけEVが普及しているのかを見てみましょう。
国際エネルギー機関(IEA)が、「グローバルEVアウトルック」という報告書を毎年作っています。その2023年報告書の販売シェアを見ると、日本は2%ぐらいと大変低く、後発であることが分かります(赤い矢印)。
アメリカや韓国の販売シェアは日本の倍ぐらい。ヨーロッパ全体では20%を超え、ドイツは30%を超えています。
先進国(OECD加盟国等)は、すでにかなり普及している中で、「さらにどう増やしていくか」という課題が起きています。
国際的な普及の度合いでいうと遅れた立場にある日本と、フェーズが違う他国の議論が、WEBメディア等では一緒にされてしまっていることもあるのかな、と思います。
日本は、10年ぐらい前から三菱のi-MiEVや日産のリーフが開発されるなど、スタートは本当は早かった。しかしその後、日本での普及は停滞して、その間に中国やヨーロッパ、世界全体はどんどん増えてきている。現在の状況はこんな感じになっています。
実際に買って乗ってみて
EVを買うのであれば、どのEVが良いのか。色々な条件があると思います。
例えば、長距離移動が多い人は、ある程度バッテリー容量の大きな車が必要になると思います。そうすると、リーフの60kWhモデルやテスラのモデル3などは向いていますが、サクラは200km以上走るのはしんどいので向いていないです。
例えば、自宅であまり充電ができず、外で急速充電をする人は、ディーラーが発行しているお得なカードが利用できる国産車の方がお勧めになります。
逆に、例えば家に太陽光発電がありV2H(家からEVに充電したり、EVに充電した電気を家で使ったりすることができる)をしたい場合は、テスラは今のところ使えません(テスラがV2Hに必要なCHAdeMO(チャデモ)アダプターに対応していないため)。
長距離走行が長く、本体価格も安く抑えたいのであれば、ドルフィン(BYDという中国メーカー)、コナ(ヒョンデという韓国のメーカー)も選択肢に入ってくるかもしれません。
●●私の場合~購入~
私の条件は、以下の通りです。
- 仕事で片道120~150kmの移動が頻繁にあり、冬も含めて往復を無充電で行けるようにしたい。
- 中古車で良いので、300万円台。
- 外の急速充電の頻度が高い(家の前が里道で、常時駐車ができず、家での普通充電があまりできない)。
私は2021年製のテスラモデル3を中古で購入しました。購入時の走行距離は24,000kmです。(購入時、テスラの急速充電を比較的安くできる日産のカードがあり、ギリギリ申し込みができました。これがなければ、電気代がけっこう高くなってしまっていると思います)
●●私の場合~電費~
2023年6月から12月までの平均電費は 128Wh/km、つまり1kWhで7.8km走っています。エアコン利用の少ない春秋であれば、9km/kWh以上走っています。
私は高速道路の利用も多いので、電費はちょっと悪くなっています。また、冬はバッテリーの関係で電費が悪くなります。
逆に、下道を走行したり、渋滞している場合は、むしろ電費は良くなることがあります。
左側の黒い画面が、実際のテスラのナビ画面になります。
●●プリウスとテスラを比較してみると
プリウスが非常によく売れているので、現行プリウスとテスラモデル3が2,000km走行した場合を比較してみました。
燃料/電気代の比較は、プリウス(ガソリン150円/Lで計算)よりも、テスラモデル3(家で充電した場合として33円/kWhで計算)の方がかなり安く、3分の2ぐらいです。一方で、テスラを出かけた先で充電した場合として54円/kWhで計算すると、プリウスよりも高くなります。
CO2排出量の比較は、現在の関電の排出係数で計算しても、テスラがかなり低いです。これを再エネ割合が高い電力会社の電気や太陽光で作った電気にすると、もっと下がります。
上記は現行プリウスという非常に燃費の良いハイブリッド車との比較になるので、標準的な車(燃費10~15km/L)からEVへの乗り換えで、街乗り中心の場合は、走行にかかる費用を半分以下ぐらいにできそうですね。太陽光発電の設置家庭において太陽光の余剰電力で充電できる場合は、さらに安くなります。
●●「EVは高い」は本当? トータルコストを見ると
そうはいっても、本体価格が高いと思われる方もいると思います。
そこで、日産のガソリンの軽自動車「デイズ」と、同じ日産のEV「サクラ」を比較してみました。
年1万km走行し、8年で買い換える場合の年間維持費(購入費、ガソリン代や車検費用等を含めた費用を年数で割る)を見ると、実はあまり変わらない水準にまでなってきています。
参考:WEBサイト「自動車ランニングコスト」 https://car-life.adg7.com/
これに、部品代やオイル代などの消耗品の値段も考慮していくと、逆転することもあるかもしれません。
少なくとも、この軽自動車については「EVは高い」では無くなってきています。
今後は、補助金が無くなったとしても、EVが化石燃料車よりも安くなるだろうという見方が世界的には強くなっています。海外の金融系企業グループのゴールドマン・サックスの将来予測では、2026~2028年あたりから、ガソリン車やハイブリッド車よりも、EV車のトータルコストが下回ってくるだろうとしています。もちろん原油価格等によって変わってくるとは思いますが、それだけバッテリーなどの値段が下がってきているということかと思います。
参考:ゴールドマン・サックスのWEBサイト https://www.goldmansachs.com/index.html
●●乗ってみて思うこと
さて、実際乗ってみての感想ですが、EVはむしろ「田舎に向いている」のでは、と私は思っています。
- カーブの多い山道などの運転が楽です。というのは、回生ブレーキなので、アクセルを離すと減速するため、カーブでいちいちブレーキを踏まなくて良い。さらに(回生ブレーキを使うと)電費を稼げます。山道を上がるときはそれなりにエネルギーが必要ですが、下りてくるときはほとんど電気を使わないことがあります。
- 田舎は駐車場が広いことが多く、充電がしやすい。逆に、都会で自宅に駐車場がない人は、自宅で気軽に充電出来ない点から、お勧めしにくいです。
その他に、これはEV全般ではなく、私の車(テスラ)の特徴なのですが、
- 車体がパッシブ設計という冬の暖房負荷を減らす工夫がされています。(ガソリン車であれば冬はエンジンの余熱で暖房しますが、EVではそれができないため、暖房にエネルギーが必要となり冬の電費が悪くなる。私の車はガラスルーフになっているため、冬も晴れていたら車内が暖くなり快適です。)
- オートパイロットという運転モードがあり、高速道路であれば運転が楽。
- 本体8万km、バッテリー16万km保証(16万km走って、バッテリーの劣化率がメーカー指定よりも下がっている場合、無償交換してもらえるので、バッテリーの心配をあまり気にしなくても良い)
- ソフトウェアアップデートでオートパイロット等の色々な機能がどんどんよくなっていく、
などがあげられます。
テスラ車のデメリットもあります。一つは、タイヤがパンクしたときの修繕が大変なことです。タイヤは空気圧をリアルタイムで測っていて、空気圧に合わせて4つのタイヤそれぞれの回転数の制御をかけています。そういうものがついているため、パンクしたときに修理できる場所が限られています(オートバックスやイエローハット等では現在対応してくれない)。指定の場所までレッカー車で運ばないといけません。一応、それをカバーする保険には入っていますが、パンクした時は少し不便です。
他にも、テスラは製造方法の都合で(ギガキャストといって、大きな金型で2つぐらいの部品で成形している)壊れた時の修繕費用が高くなりがちだそうです。もちろんそちらも車両保険は掛けていますけれども。
ちなみに、私の購入条件として価格を挙げましたが、中古EVはリセールバリューが低く数年で半額まで下がってしまいます。例えばテスラの場合、販売価格500万円ほどが、約2年間で2万kmぐらいの走行で下取りに出すと200万円ほどになります。他方、中古であっても新車と同様のソフトウェアアップデート・本体補償・バッテリー補償を受けられます。中古EVは安くてお得かもしれません。
●●EVに向いている人
そろそろ車を買い替えようかなという方で、現時点で次のようなことが当てはまる方は、EVに向いていると思います。
- 家に駐車スペースがある人(充電器を設置できる)
- 集合住宅だが十分な共用充電設備がある人
- ガソリンスタンドが遠い(例えば田舎の)人
- 太陽光発電がついている人(安く充電できる) ※別に太陽光発電がなくてもOK
- 信頼できるソースの最新情報を確認できる人(EVはソフトウェアをアップデートして機能が追加・変更されますが、変更内容を把握できると車の使い勝手がかなり違ってくるため)
EVの今後の普及に向けて…地域で取り組めること
家で充電できるような人はどんどんEVに乗っていただければと思いますが、そうでない人も含めてEVを普及させていくにはどうしたら良いか。
地域で取り組めることが、いくつかあるのかなと思います。
●●昼間に普通充電できる場所を増やす
職場や公共施設(例えば図書館や体育館など)、大型商業施設や病院など、車をある程度の時間以上駐めておける施設で、昼間に普通充電ができると便利になります。そこで、昼間の普通充電設備が増える仕組みを自治体などに考えてもらえると良いかなと思います。
なぜ昼間の充電が良いかというと、昼間は太陽光で発電をしているので電力需給に余裕があり、電気の価格が安く、再エネ比率の高い電気だからです。
急速充電設備は、公共施設などに比較的早くから導入されていますが、導入コスト・維持コストがいずれも高いことや、故障で使えなくなっているものも多いなどの課題があります。
昼間の普通充電器は、京都でも少しずつ出てきて、例えばフレンドマートや上新電機などの一部店舗で利用できますが、もっと増えたら昼間の電気を有効に活用でき、EV利用も進みます。
細かい話ですが、もし普通充電器を付けるのであれば6kW以上がお勧めです。だいたい2時間ぐらい充電すると100kmぐらい走れるので、近場の移動であれば十分に足りるからです。
ただし、一つ気になっていることがあります。例えば私の家から温暖化防止センターまでの電車賃とEVで移動するときの電気代を比較を計算すると、EVの方が安かった。今、公共交通は人手不足もあり大変厳しい状況です。EVが普及し、移動コストが安くなる一方で、公共交通が大変になってしまうのではないか。なので、公共交通を維持するための負担の在り方ということを真剣に考える必要があるのでは、と個人的には思っています。
●●ラストワンマイルのEV化を支援する
宅配・運送事業において集荷拠点から各家庭への配送、いわゆる「ラストワンマイル」で使用される1トントラックや軽バンのEV化を支援することも良いと思います。
なぜかというと、こういう配送は1日の走行距離が大体決まっていて、現行のEVのバッテリー容量に収まることが多いからです。また、EVはアクセルを踏んですぐ動くため、発進時間(初期始動)も短縮できます。配達等で1日100回ぐらい止まって動くということを繰り返すと、1日数十分程度の時間短縮も可能となり、人手不足問題にも若干寄与します。
すでに郵便局ではEV軽バンがだいぶ増えてきていますね。
地域の流通を行っている事業者を、自治体が支援するのは非常に良いのではないかと思います。
一度、体験してみよう!
理屈はともかく、まずは体験することをお勧めします。
ずばり私のおすすめは、EVのレンタカー利用です。例えばMKハートレンタカーの日産サクラだと、9時間で6,500円と結構リーズナブル、ガソリン車のように満タン返ししなくて良い(つまり電気代込みで6,500円)。
レンタカーだと試乗車よりガッツリ長時間の運転ができます。やっぱり長時間運転してみると、色々と良いところが分かってきます。
みなさんも、ぜひ一度ご自身で体験をしていただいて、EVを検討いただければと思います。
(以上)