【特集】ソーラーシェアリング見学会~特別養護老人ホーム「向陽苑」~
ソーラーシェアリングの現地見学会を行いました。
~特別養護老人ホーム「向陽苑」~
ソーラーシェアリングをご存じでしょうか。農地に支柱を立て、上部の空間に太陽光パネルを隙間を空けて設置し、発電をしながらその下で農作物の栽培を行うというもの。太陽の光を「発電」と「農業」とで分け合う(シェアする)方法で、今注目が集まっています。
最近、向日市に新たにソーラーシェアリングを設置されたということで、見学会を行いました。
当日は小雨の中、農業関係者、自治体関係者、環境団体のスタッフなど30名以上が、向陽苑の建物に隣接する畑に集まりました。
太陽光発電は最近通電したばかり。畑にはブルーベリーの苗が植えられています。
【日時】2025年2月12日(水)13:30~16:00
【主催】京都府
【企画運営】京都府地球温暖化防止活動推進センター
【場所】特別養護老人ホーム向陽苑及び隣の畑(向日市)
【お話を聞いた方】
・社会福祉法人向陽福祉会理事長 高桑勝(たかくわしょう)さん
・株式会社TERRA代表取締役 東光弘(ひがしみつひろ)さん
●●地域の人が集まるためのソーラーシェアリング
はじめに高桑理事長から、設置への思いを話していただきました。
「もともと向陽苑は『関わりを大切に、福祉からまちづくりを担う存在へ』という理念のもと、地域貢献として、子ども食堂や高齢者の居場所づくりなど、いろんな仕掛けをしながら、いつでも人が来れるような施設をめざしていました。
高齢の利用者さんや地域の子供と一緒に畑を作ろうと、隣接する農地を購入し、使い方を検討している頃に東さんと出会い、ソーラーシェアリングのことを知りました。」
いろいろな話を聞く中で、太陽光パネルや蓄電池が使えると緊急時に対応もできることや、日影を利用した栽培方法に興味を持つようになって、ソーラーシェアリングの設置を決められたそうです。
「この畑に子どもたちが並んで、ご飯を食べている光景を思い描いています。そして向日市以外でも、このソーラーシェアリングの取組が広まっていけばいいなと思っています」
●●太陽光パネルで木漏れ日を再現
つづいて、設置工事をした、株式会社TERRAの東光弘さんからお話を伺いました。東さんは、市民エネルギーちば株式会社や株式会社ソーラーシェアリング総合研究所の代表取締役など、いくつもの会社を兼務されています。
以前は有機農産物の流通の仕事をされていたそうです。その経験をいかして、現在は農業や自然生態系を大事にしたソーラーシェアリングの設計設置、普及を行っておられます。今回も設置工事だけではなく、農業面でのアドバイスもされています。
太陽光パネルで影になるのに、作物はちゃんと育つのでしょうか?
「ここで使われてるのは、幅が約40センチ、長さが約2メーターの細長い太陽光パネルで、表と裏の両面で発電します。遮光率(上から見たときに、太陽光パネルが覆っている比率)は、植物によって変えていますが、ここでは40%程度にしています。少しの日影は植物にとってプラスになるので、できるだけ自然と同じような木漏れ日に近づけるために、細いパネルを使っています」と、東さん。
この畑にはブルーベリーの苗を7種類50本植えたばかり。今年の夏に、まず少し実がなり、来年からしっかり本格的に実がなる予定です。
東さんたちは10年以上ソーラーシェアリングでブルーベリーを栽培されていますが、糖度があり、食べた人から美味しいと言ってもらえることが多いそうです。
他にもソーラーシェアリングで今までトマトやキュウリなど50種類以上の品目を育ててきましたが、どれも元気に育っているそうです。水稲でも収穫量や品質が上がり、とてもよい結果が出ているとのこと。
●●設置について
ソーラーシェアリングは背が高く風の影響をうけやすいので、強度のあるものをつくることを意識されているそうです。
設置費用は環境省の助成金を利用して、2分の1の費用でできました。蓄電池も付けています。作った電気はすべて向陽苑で使っており、金利を含めても約10年で元が取れる予定だそうです。
処分する場合は、素材をきちんと分ければリサイクルの優等生。ただ、処分を考える30年後には、ペロブスカイト太陽光電池(※)を上から貼ればさらに20年使えるとのこと。
(※)ペロブスカイト太陽光電池:薄くて、軽くて、曲げやすい、フィルム型の太陽電池。
株式会社TERRAは積水化学工業株式会社と共同で、営農型ペロブスカイト太陽電池の実証実験を行っています。
●●今注目が高まっているソーラーシェアリング
農業従事者の減少や高齢化のため、ソーラーシェアリングで農業を行う人が見つかりにくいのが課題だと、東さんはおっしゃいます。その一方で、東さんの農地には、大手の企業から見学に来られるなど、今までになくソーラーシェアリングに注目が集まっているのを感じているそうです。
東さんは、ソーラーシェアリングを軸に、人が集い、関係性が生まれていくことを大切にされています。
「今回の向陽苑では、すごく畑や地域を大事にした、いいモデルを作っていただきました。
ソーラーシェアリングは作って終わりではなく、その後いろんな意味で農地を育んでいくのが本来の姿です。これから1年1年、このブルーベリーと同じように皆さんの力を借りて成長していくと思います。皆さん、この機会に仲良く繋がっていただければと思いますので、よろしくお願いします。」
思いと行動力のある二人が出会ってできたソーラーシェアリング。
これから、ブルーベリーの実がなり、地域の人たちが集まる場所になるのが楽しみです。